漢方認知症診療

 実はわたしの母は、アルツハイマー病で亡くなりました。アルツハイマー病で亡くなるということは、そのほとんどが何らかの合併症で亡くなることを意味しています。

 例えば、食事摂取が出来なくなり寝たきりとなる、誤嚥性肺炎を合併する、その他の感染症の合併を起こし、そのために死亡することがほとんどです。

 私の母も失禁状態となり、おむつを余儀なくされ、結果的に尿道感染症から菌血症、敗血症となったことが原因だったと思っています。


 母の姉妹は、そのほとんどがアルツハイマー病に罹患しました。母も発症した当時、亡くなる前のおよそ10年前に、脳のMRI検査を受けました。海馬の委縮はそれほど目立ちませんでした。しかし、症状的からはアルツハイマー病に間違いありませんでした。


 わたしは実の母の主治医として、種々の薬剤治療を試みました。認知症に効果が期待されると一部の医師が強く勧めたフェルラ酸などのサプリメントも試しました。

 しかし認知症は確実に進行し、残念ながら改善することはありませんでした。


 使用した抗認知症薬は、アリセプト(ドネペジル)、レミニール(ガランタミン)、イクセロン・リバスタッチ(リバスチグミン)、メマリー(メマンチン)で、すべての薬剤を最高容量まで投与しましたが、残念ながら明確な効果は得られませんでした。


 では、これらの薬剤がまったく意味がないかというと、そうは考えておりません。治療薬の無かった時代、ある意味では画期的な薬剤であったと思います。


 そんな中で、とある患者さんが来院いたしました。前医から「釣藤散」という漢方薬が処方されていました。わたしも釣藤散にどの程度の効果があるのかいぶかりながらも、家族の希望もあって同様の処方をしました。その後何年か経過を見ていく中で、明らかな認知症の改善効果はないものの、逆にあまり増悪もしてないなという事を実感しました。


 現在、アルツハイマー病の原因物質と考えられているβ--アミロイドを減少させる薬剤による治験が進められていますが、いずれの治験でも臨床的症状の画期的な改善効果は出ていないのが現実のところです。


 その中で、漢方薬で進行を抑制する、という選択肢もあるのではないでしょうか。

これまで既存の薬剤投与してきたが、認知症増悪が進行する。くすりが体質に合わないという患者さんは、一度検討の余地があるかもしれません。


 これまでも、「怒りっぽくなる」、「妄想がある」、「一人でウロウロと歩き回る」、「興奮したり、暴言や暴行がみられる」などの症状を持った行動心理障害(BPSD)の患者さんには、抑肝散や抑肝散加陳皮半夏といった漢方薬が、広く使われてきました。

 わたしは漢方薬の専門家ではありませんが、漢方薬処方の「実症」「虚証」という考え方に合わせて、薬剤を選択します。もちろん漢方薬も効果のない患者さん、あるいは体質に合わない患者さんも当然いらっしゃるとは思いますので、その際にはいつでも投与中止を選択できます。

また、希望されれば既存の薬剤との併用も可能です。どうか一度ご検討ください。


 特にアルツハイマー病の前段階とされる軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)には漢方薬が有効とのデータもあります。興味がありましたら、ぜひご相談ください。

MCI(Mild Cognitive  Impairment:軽度認知障害)って、ご存じですか?

 MCIは健常と認知症の中間の状態にあり、認知症予備軍ともいわれています。日常生活に支障はありませんが、放置しておくと約5年でその半数近くが認知症に進行するといわれています。

 これまではその症状とか家族歴からMCIと診断することがほとんどでした。しかし、血液検査でMCIの診断をすることも可能になりつつあります。アルツハイマー病の病態進行にかかわるたんぱく質を、「栄養」「脂質代謝」「炎症・免疫」「凝固線溶」の4つのカテゴリーに分類して血中量を測定することで、MCIのリスクを評価できます。

 もしも、リスクが高いと評価されれば、運動をする、バランスの良い食事を心がける、良質な睡眠をとるなど生活習慣を改善し、血管を健全に保つことが負の連鎖を抑制することにつながります。また、当院では、適応と判断されれば、漢方薬による進行抑制のお手伝いができるかもしれません。

 MCIを血液検査で調べたいという方がいらっしゃれば、ぜひ一度行い、自分の現在の状態を客観的に評価してみてください。

       MCIスクリーニング検査プラス 26,000円(消費税込み)

以下に検査の概略を図示します。

健常者のうちからアミロイドβの蓄積は始まっており、MCIといわれる早期の段階で進行を予防することが重要となります。進行に関与するタンパクは右下に示したイメージとなります。

各種のタンパク質を測定することによりリスクが評価され、右下に示したような報告書で結果を知ることができます。1年に1回、検査を受け、進行しているようなら早めの予防が重要となります。